旅の行方

リバーサイドにむかう巨大コンドルの上でふと思った。

じつは文明は、古のパイセンことのりおじさんに直接会うのは初めてなのだ。

毎年正月にSkypeで話すくらいで、どこに住んでいるのかも知らない。尊敬するパイセンを前にして聞きたい事は山程ある。

思 い返してみると、これまでの旅は予期せぬハプニングばかりだった。仲間の協力と時の運でなんとか乗り越えてこれたが、これから向かうリバーサイドにはどん な試練が待ち受けているのだろうか。亀ノ子から貰った言葉の意味も全くわからないし、ペリス以来仲間たちはどうしているんだろうか。長い砂漠の旅のせいで 忘れてしまっていた。

こんな旅をのりおじさんはたった一人で(多分)乗り越えてきたのか。文明は自分の甘さを反省した。

文明「おじさん…」

パイセン「ん、なんだ?」

文明「おじさんはうちの学校や、このカルフォルニアで最強の名を欲しいままにしているけど、僕はおじさんを超えたいんだ。僕も最強になれるかな?」

パイセン「文明、おじさんが最強だって?それは違うぞ、俺はただの馬鹿だ!馬鹿と最強は紙一重だ!」

文明「…真理!おじさんはやっぱしすごいよ!」

パイセン「ハッハッハ。そうか! そういや、もうペリスには行ったか?」

文明「ああ行ったよ。壮絶な頭脳戦の末、僕たちが勝利したさ。それも仲間たちのおかげだよ。」

パイセン「いいぞ、それでこそ男だ。仲間は大切な事を教えてくれるからな! ペリスか…懐かしい、俺もカルフォルニアにきて随分経つなあ。」

文明「おじさんは何でまたカルフォルニアにきたの?荷物ゼロで修学旅行を達成したって伝説は聞いてるけど。」

パイセン「ん?それは少し違うな!まだ俺は帰ってねえ。」

文明「…!?」

パ イセン「俺は己の強さを確かめたくてペリスや砂漠で戦い続けた。一心不乱にな。確信通り俺は半端なく強かったんだ。ただそんな事をしてはぐれた俺に気づか ず、豆高の皆んなは日本に帰っちまった。そして俺はやっと気付いたんだ。大切なのは仲間だ!ってな。笑っちまうだろ!」

文明「…!?(笑えないよ!)」

パイセン「お前はもうそれに気づいたじゃないか!これからどんな試練が訪れようと心配ねえ!」

巨大コンドル「ギャー!ギャー!」

パイセン「ハッハッハ。こいつもそう言ってるぜ!」

文明は言葉が出なかった。古のパイセンことのりおじさんがここまで最強(馬鹿)だったとは。今までのリスペクトに少し陰りがみえたが、それでもなお文明は心の奥底からふつふつと沸き立つ闘争心を抑えきれずにいた。

文明「(これからどんな困難が待ち受けていようとも、この旅でおじさんを超え、古のパイセンに僕はなる!!)」

文明はそう心に強く誓った。

ただ、お土産も買ったし修学旅行が終わったら普通に母と妹の元に帰りたいな、とも思った。

ドスモッコス!僕たちのパラレル修学旅行! 『完』

ご愛読ありがとうございました!

sagwayにて、再び。

「お、その亀は…。」

のりおじさんが僕が小脇に抱えた亀を指差し言った。

「良かった、亀ノ子に会ったんだな。」

「うん。これもらったよ。」

「そうかそうか、まぁ水を飲め。喉が渇いただろう。」

倒れたマスターを足で隅に寄せて、のりおじさんがカウンターから水をくれた。
マスターはピクリとも動かない。

「1週間寝ずにホットドッグを焼いていたからな…。悪いことをしたよ。」

不安そうな顔をしていた僕を見ておじさんがフォローした。

「そんなことより、どうしておじさんがここにいるの?」

「もしかすると、お前がここに来るんじゃないかと思ってな。」

「なんで僕を待ってたの?」

「時間がないから結論から言う。リバーサイドがやばい事になっているんだ。」

「そうだ!!さっきマドマーゼルもそう言ってたよ!!どういうことなの!?」

水を一気に飲み干し落ち着いた僕は元気を取戻し、ここに辿り着いた理由を思い出した。

マドマーゼルと話した事が遠い昔のことのようだ。

父さんや榎戸は無事なんだろうか。エマと美智也は…。

「本当に時間がないんだ。詳しい事は移動しながら話す。」

さっきとは違って真剣な面持ちのおじさんは、ふざけているわけではなさそうだ。

「水は飲んだな。よし、行くぞ。」

「うん!」

「おい、あのソースを持っていけ。役に立つかもしれない。」

あのソース…。

僕はそばにあったあのソースを2、3個ひっつかみ、おじさんの後を追いかけsegwayを出た。
ずっと抱えていた疑問をおじさんに問いかけてみる。

「ねぇ!おじさんは本当の本当に古のパイセンなの!!?」

おじさんがぴゅぅっと指笛をした瞬間、
遠くからバサバサと巨大コンドルが現れた。

「それはこれから…お前の目で確かめろ!!!」

華麗に身を翻し巨大コンドルに乗ったおじさんが、僕に手を差し伸べた。

やっぱり…おじさんは本物の……。

背中から夕日を浴びるおじさんが、オレンジ色に輝いていた。

僕の叔父さん

「マスター水を!」

文明が勢いよくsegwayの扉をあけるとそこには…
床に倒れ動かないマスターと、こちらに見向きもせずカウンター席でビッグホットドックを貪る男が一人いた。

文明は慌ててマスターに駆け寄った。
「マスター!どうしたんだよ!」

「もう俺にゃあホットドックは焼けねえ…悪いな青年…」
マスターはそう言い残し、眠りについた。
(Zzz…)

「ちょっとあなた、さっきからそこで何をしているんですか?!」

文明の言葉にカウンターの男が振り向いたその瞬間…
衝撃が走った。

「の、、のりおじさん?!!」

そう。
先程からひたすらホットドックを貪っているこの男こそが
あの伝説の男、古のパイセンこと父さんの双子の弟で文明の叔父の通称のりおじさんである。

「な〜んだ文明か。何してるんだ。」

「のりおじさんこそ…こんな所でなにを?!!」

「見たら分かるだろう、ホットドックを食べている。57本目だ。

伝説の男は右手の指を3本立てながらそう言った。

「57本?!!食べすぎだよ!のりおじさんも父さんも、そんなんだから禿げるんだよ!やめてよ!」

「HAHAHA…文明も…言うようになったなぁ」

修学旅行前夜、父からあまりにもあっけなくそして衝撃的なあの告白をされて以来、文明の中で疑問は膨らむ一方だった。

(のりおじさんが古のパイセンだなんて…信じられない!)

全てが腑に落ちない文明だったが、とりあえず伝説の男に話を聞くことにした。

砂漠の真ん中で亀と叫ぶ。

砂漠のど真ん中に出ると、早速喉がカラカラな事に気づいた。

どうしてマドマーゼル亀ノ子に亀ではなく水をもらって来なかったのか文明は自分を責め、亀の甲羅に自分の頭を何度もぶつけた。

「僕は、バカか!砂漠に水ってベタすぎだろ!そんな事すら気づかないなんて!」

文明の額からひと筋の血がしたたり落ち、唇を潤した。

少し生臭いその血は一瞬ではあったが口の乾燥を潤してくれるようだった。

「なるほどな、まだ血は温かいってことか。この血が流れている限り、僕はやれる!僕だってまだ彼女を作ったり、デートをしたり、やりたい事が山のようにあるんだ!ここで死ぬわけにはいかないんだ!!!」

そう天高く叫ぶと、手に持っていた亀に謝った。

「すまん、苛立っていたんだ。お前も痛かっただろうな・・。」

許してはくれまい、でも何度も何度も甲羅をさすってやった。

すると砂まみれの甲羅に何か書いてあるではないか!!

「な、なんだこれは!」

文明は、さらに手で砂を丁寧にはらった。

マドマーゼル亀ノ子は自分が託した亀を文明が優しくなでたとき、そこにホテルまでの地図が現れるように仕掛けをしておいたのだ。

「こ、これは・・・!!!!地図だ!!!!宝の地図だ!!!

 マドマーゼル亀ノ子。イカシタ事しやがる。。あいつはただのババアじゃなかったんだ。」

文明は亀を突然大事に抱え、何日も砂漠を歩き回った。

この先には宝がある!

もしかしたら億万長者になって僕も伝説の男になれるのかもしれない!

そう信じて。

文明の服がアキラのようにズタボロの布一枚になった頃、ようやく見慣れた景色にたどり着いた。

「あ!ホットドック屋だ!!!!!」

ホテルリバーサイドはもうすぐだった。

ただこの時文明はそこにあの伝説の人物が大騒ぎをしている事なんて知るよしもなかった。

亀の組織

仲間・・・なか・・・ま・・・・・な・・・カマナ。

文明は完全に砂漠の真ん中で迷ってしまっていた。

このままじゃあ・・まずい。
最悪の場合、死ぬ。

なかまを集めないといけないのに・・・
う・・・水・・み・・・・・

パタッッ・・

文明は気を失った。

・・・・
・・・・
・・・・

うーーーん。ん?
なんだここは。洞窟か?

たしか僕は砂漠の真ん中で迷って・・

「おう、やっと起きたか少年。」

ギリシャ神話のように布一枚を纏った、
でもとても汚い男がそこには立っていた。

文明「ここは・・・?」

?「ああ。亀の組織のアジトだ。」

文明「亀の組織?」

?「盗賊団、亀の組織。知らないか?」

文明「はい。盗賊団ですか?それよりあなたは日本人なんですか?」

?「そうだ。亀の組織。俺たちゃ盗賊。」
?「日本人だけで構成された盗賊団さ。」

文明「あっ、でも助けてくれたんですよね。ありがとうございます!僕は目祖歩田宮。」

?「ああ。俺は亀の組織、一番のザコ。名前なんてもう忘れちまったぜ。・・・アキラだ。」

文明「では、帰りますね!ありがとうございました!」

アキラ「待ちな!亀の組織、なめんなよ!」

文明(やばい・・これはバトルの予感・・・)

文明はこれまでの経験から導き出していた。この気配はバトル!だと。

アキラは文明を睨みつけ、壁に開いた穴から剣を取り出した。

文明(穴剣!?僕は殺されるのか!?)

その瞬間、ハンパない感じの声がした!

?「おやめなさい!」

文明・アキラ(!?)

アキラ「マドマーゼル!!」

文明(バ・・・ババア!?)

マドマーゼル「何をしているのアキラ。相変わらずのザコっぷりね。」

アキラは下を向いて、そして上を向いた。
涙をこぼさないように。

マドマーゼル「あなた・・・予言通りね。あたしは、マドマーゼル亀ノ子(きのこ)。」

文明「・・初めまして。。僕は目祖歩田宮です。」

マドマーゼル亀ノ子「知っているわ。目祖歩田宮くん。」

マドマーゼル亀ノ子「青き衣を纏い亀にヒットせし者が道を示すだろう。」

マドマーゼル亀ノ子「それがあなたよ。やはりあの方の言葉は本当だったのね。」

文明「もしかして、そのあの人って・・。」

マドマーゼル亀ノ子「そう。パイセンオブレジェンドのりお様、通称PoLNo(ポルノ)様よ。」

文明「・・ポルノ様。古のパイセン・・」

マドマーゼル亀ノ子「この亀の組織も彼が作ったの。きっとこの時のためにね。」

文明「でも石版には皆で亀にヒットさせよって書いてあったはず・・。」

マドマーゼル亀ノ子「みんなのチカラでここまで来れたのよ。身の程を知りなさい。」
マドマーゼル亀ノ子「それよりあなた、先日のりお様はここを訪れたわ。そしてこう言ったわ。」

・・・・「今!リバーサイドがやばい!」・・・・

マドマーゼル亀ノ子「彼はそう言うとすぐに北を目指したわ。リバーサイドを。」

文明「そうだったんだ!ありがとうマドマーゼル!行くよ!」

マドマーゼル亀ノ子「急ね!!」
マドマーゼル亀ノ子「ええ!行きなさい!!皆の待つリバーサイドへ!」
マドマーゼル亀ノ子「あ、ちょっと待って!この亀を持って行きなさい!」

文明「かたじけない!」

文明は亀を受け取ると亀の組織のアジトをあとにした。
しかしそれは灼熱の砂漠へ身を投じることも意味している。
でもリバーサイドがやばい。その言葉が本当ならばやばい!
文明は自分の身の危険も考えず砂漠のど真ん中に飛び出したのだ。

そしてマドマーゼル亀ノ子に渡された亀が
自分の命を救うことになることをまだ知る由もない。

言い伝えの男。ここにありき男。

美智也「その拳は大事な時にとっとけ。その怒りも忘れんな!」

!?

上からすぎる発言に文明は逆に冷静になった。

文明「美智也!おめーってやつぁーいつもそうだ!俺をはめにはめやがる!」

しかし、気づいたら涙が溢れていた。

ボロボロの青いジャージに濃ゆい点々模様が増えていく。

文明「泣いてなんかないぞ、目にゴミが入っただけだ!!」

美智也「・・・文明、これには訳があって!俺だけ残った日あったろ!」

文明「おっと!汽車の時刻だ!またな」

泣きながら、猛ダッシュで立ち去った。

美智也「文明!!その先は砂漠だぞ!」

母さん「その者、青き衣を纏いて、金色の野に降り立つべし、失われし大地との絆を結びあおき清浄の地へ導かん」

!?

エマ「その言葉!!!!たしか、風の谷のナウシカさんの大ババ様が言い放った古の言葉!!!」

母さん「古の古文書の予言は当たってたようね。」

美智也「亀、武者震き、筋たちに。青き草原の絆をつかさどる。」

母さん「その通りよ」

美智也「亀 あらんことを祈りき 者、者の友を裁こうとして処す。」

母さん「なるほどね」

エマ「その言い伝えが本当ならとんでもなき、シーズンになりそうね。」

美智也「文明、、、いや目祖歩田宮!!いってこい!パイセン オブ レジェントを超えてこい!」

三人は拳を天高く突き上げた。

(BGM yah yah yah)



ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ

もう、10時間は走っただろうか。疲れてはいるものの、この修学旅行中に基本体力が上がっている。

文明「ハァ、ハァ、もうここかどこかもわからない!!!」

ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザク!!!!

ん?なんだこれ。

石につまづいたみたいだ。

よく見ると石板だった。

「文字が彫ってあるな。」

「W,A,R,E,P,A,I,S,E,N,N,A,R,I」

ん?ワレ パイセンナリ!!

この石板は古のパイセンの手がかりなのかも!まだ続きがある!!

「WARE KOETAKUBA MINADE KAME NI HIT SASEYO 」

ワレ コエタクバ ミナデ カメ ニ ヒットサセヨ

意味が分からない。

しかし、とても難しくとんでもないことをしないといけないと言うことは感じ取った。

偶然とはいえ、古のパイセンを超えるチャンスを手に入れたんだ!やってやろうじゃねーか!

でも、どうすればいい。

石板といえば、考古学だが、考古学の授業いつも寝ていたしな。。。

ワレ コエタクバ ミナデ カメ ニ ヒットサセヨ

ワレ コエタクバ ミナデ カメ ニ ヒットサセヨ

「みなで!!!そうか!仲間を集めよう!!」

この修学旅行、何日たったか分からないが、リバーサイドに戻る頃はもう後半のはず!

後半は確か、ほぼ自由時間!!!

まずは隣のクラスの考古学(こうふる まなぶ)に声をかけよう。

そうと決まりゃ、リバーサイドに直行だ!!!

文明は見落としていた。石板には裏にもまだ続きがあることを。

鬼が出るか蛇が出るか。。。それとも亀が出るか。

新事実

文明「美智也じゃないか!どうしてここに…」

エマ「あら美智也!心配してたのよ、今日帰ってくるなら連絡くらいしてよ。寂しかったわ(英語)」

美智也「ごめんよエマ。ママに連絡したところでちょうどコンドルに携帯を取られちゃってね。カルフォルニアならよくあることだろう?(英語)」

エマ「そうだったの、美智也が無事でなによりだわ(英語)」

いきなり現れた美智也がまるで以前からの顔見知りのようにエマと英語で話している。
いったいどうなっている。

美智也「エマが言ってた最近できた日本人の友達って、文明のことだったのか!」

文明「…え?」

美智也「英語は全然喋れないけどとてもイイやつだって聞いてて。まさか文明だとは思わなかったよ!本当に久し振りだね」

文明「…え?友達?いや、あ、美智也もエマと知り合いだったのかい?驚いたな…」

美智也「いやいや、エマとはビーチで知り合ってね。付き合ってるんだ、まさかカルフォルニアで彼女ができるとは思わなかったよ。こんなことが起こるなんて英語が得意で本当によかった。
そういえば、目指していたペリスには無事行けたのかい?」

文明「…!?。彼女?…、え?…なんだって?あ、ペリス?
あぁ、ペリスでは本当に大変だったよ…」

文明は混乱していた。
美智也とエマが付き合っているだって?どういうことだ!エマと付き合っているのは自分のはず…。

いや、よく考えてみるとエマから彼氏だとかボーイフレンドだとか言われたことはないし、英語だから8割分かんない。一大決心して伝えた告白の言葉も身振り手振りとほぼ日本語。もしや伝わっていない…!?
それに、ビーチでの父さんの意味深なセリフとあの表情。そういうことだったのか。そうなるとあの関西弁も…。

そうだ、きらきらアフロだ!
笑福亭鶴瓶と松嶋尚美の2人が出演しているトークバラエティ番組『きらきらアフロ』。
美智也はあれの大ファンでたしかDVD-BOXを持っている。ふたりで観て、あの関西弁をマスターしたのか。
ちきしょう、こんなことがあってたまるか、これは穏やかではないぞ!

本来ならば久し振りにあった友人らしくちょっと談笑して、すぐにエマのお母さんに古のパイセンについて話を訊きに行かなければいけないのに。一発殴らせてくれと言いたい!こんな時どうすればいい、どうすればいいんだ、教えてくれ父さん!

美智也の前で拳を握りしめ立ち尽くす文明だった。

再会

カリフォルニアの太陽がじりじりと照りつける中を歩き続けた僕は、ウィンナーパーティーによって太った身体が完全に元通りになっていた。
むしろ色黒になりすっかり夏のオトコだ。弱々しい動きとげっそりとした顔は別として。

「マミー!アイムホーム!」

エマがテンション高くドアを開けると、お菓子が焼ける甘い香りがして少し元気になった。
奥の方からパタパタと駆け寄ってきた女性はエマと同じ青い目、美しいストレートヘアーだ。
少しふくよかな、しかしとても綺麗なその女性はエマを見るなり笑顔でエマに抱きついた。

「エマ!ハーイ!」

二人は英語でペラペラと話したあと、エマのお母さんが今存在に気づいたかのように僕を見る。

「ハ、ハロー。」

彼女の母親に初めて会う場面というのはたいてい緊張するものなのだが
歩き続けて日にちの感覚すらないほど疲れていた僕は、出来る限り背筋を正して挨拶するのがやっとだった。

「oh!ハーイ!」
「ママ、文明よ。ママに会いたいって言うから連れてきたの!!」
「ハハハ!スゴク疲れているわね、入って入って!何か食べないと死んじゃいそう!」

エマに背中を押されてリビングのテーブルに腰掛けると、エマの母親がキッチンから何かを持ってきた。
目の前に出されたのは、手作りのレモネードと、ホットドッグ。

またウィンナーか…。

うんざりするほど食べたホットドッグは、一口食べるとやっぱりうまい。
エマは隣で母親特製のカントリーマアムをつまみ食いしていた。
食べ終えてすっかり元気になった僕は、エマの母親に改めて自己紹介をしてさっそく本題に迫った。

「のりおじさんの事を聞きたくて来ました。あやふやだけど、多分修学旅行は残り半分くらいになっているはずです。
ペリスクールの四天王との頭脳戦にはなんとか勝利したけど、僕達はこれからどうすべきなのか、手がかりが全くないんです。」

「ねぇママ、NORIOについて彼に何か教えてあげてよ!」

「OKOK。そう急がなくても教えてあげるわよ。でも話は彼が帰ってきてからにしましょう。」

「彼‥?」

その“彼”は1時間ほどで帰ってくるらしい。
それまでエマの部屋で彼女の子供の頃の写真を見ながら過ごすことにした。
彼女は子供の頃から天使だった。

「ただいま戻りました。」

遠くから微かに声が聞こえた。“彼”が帰ってきたのかもしれない。
とんとんと階段を登る音がして、ガチャっとドアが開いた。

「お前‥!!なんでこんなところに!??」

思ってもみなかった人物を目の前にし、思わず立ち上がり大声を上げた。

「久しぶりだな、文明!しばらく見ないうちに、夏のオトコになりやがって!!」

美智也が笑顔で立っていた。

乙女心と秋の空

エマ「えー!ちゃうわ!これからやっと2人でデートやちゅうのにおっさんさっきからなんやねん!どついたろかほんまに〜」

文明「エマ…どどどうしちゃったの、その関西弁は…」

エマ「どうしたって、何がやねん!!関西弁つこたらあかんの!」

さっきまで父さんに向けられていたはずの怒りが、今度は僕に飛び火しそうな勢いだ…

(訳がわからない…というか父さんは一体彼女の何を知っているんだ?!)と思わず振り返ると、父さんの姿はそこには無く
すでに逃げたようだった。

文明「jesus!なんてこったお父さん!」
もう僕も帰りたい…そう思う文明にエマが更に達者な関西弁でまくしたてる。

エ マ「大体、あんたもなぁ。男のくせにナヨナヨして〜そんなんじゃあかんやろ!もっとシャキッとせぇ!!それに何やねんその短かいズボン!!カリフォルニア でそんなの穿いてるんゲイしか居らんで!あんたホンマはゲイなんちゃうん?ママの知ってる日本男児NORIOは、めっちゃ男らしい言うてたのに!!あんた やっぱりゲイやろ?別に隠すことないやん。」

ゲイしか居ない…?だってこのファッションは…ああ、僕はアイツらにハメられたのか…?
一瞬にしてアイツらのふざけた顔や、色々な疑問が文明の頭の中を駆け巡った。

文明「NORIO…?典雄?って…もしかして僕の叔父、つまりは古のパイセンの事じゃないか?!エマも知っているのか?!」

典雄、通称のりおじさんは文明の父の双子の兄だ。
父の話が本当であれば、のりおじさんが古のパイセンのはずだ…

エマ「うちは小さい頃しか会った事ないけど、ママなら詳しいこと知ってるで。」

文明「君のママに会わせてくれないか?!」

このカリフォルニアの地で、古のパイセンを知る人に話を聞けばこの旅をもっと伝説的で有意義なものにするヒントが貰えるかも知れない…
父はあてにならない。
文明は何でもいいから古のパイセン情報が欲しかった。

エマ「oh my god…!!(ママに会わせろですって…?!やっぱり日本男子ってhotなguyだわ!!)」

エマはもちろんOKよと言うと、さっきまでとは違い上機嫌で家までの道を案内してくれると言う。

文明(よかった、家までは歩いて行ける距離なんだな。しかしエマ、いきなりご機嫌だけど…今度はどうしたんだ…?!)

乙女心を一ミリも分かっていない文明であった。

ーそして
ひたすら歩くこと14日ぐらい経っただろうか。
僕らはやっと、エマの家に辿り着いた。

エマは横で「ママが、カントリーマアムを焼いてくれてるみたい!今日はパーティだわ!」と大はしゃぎしている。
貧弱な文明は、リアクション一つ返せない程に憔悴しきっていた。

謎の関西弁。

ウィナーによるウィンナーパーティを終えると僕らは丸々と太っていた。
アメリカンサイズのウィンナーとその美味しさに誰もが心を奪われ過ぎていた。

「文明、ジョイズブートキャンプを一緒にはじめないか?」
父さんは見るも無惨に10キロ程太っていた。

「僕はちょっと今から用事があるからビーチに行ってくるよ。」

文明は頭にサングラスを乗せてモンズJrにもらったアロハシャツ+膝上20センチのショートパンツを履いて出かけていった。
カリフォルニアの男達の間で今一番ホットな格好らしい。

慣れない口笛を吹きながらビーチに着くと青い目をした可愛い女の子がたっていた。

「トテモスローね。ニッポンのオトコ、トテモスローね。」

「エマ、お待たせ!ソーリーソーリー」

ビーチパーティで出会ったエマと文明はウィンナーパーティの間に意気投合し、付き合うようになっていた。

文明の初恋だった。青い目、綺麗なストレートの髪、すらっと伸びた手足。
話は右から左に耳を通り、文明はその完璧な容姿に目を奪われていた。

すると、突然エマの顔色がかわった。

「オーノー!オーマイが!!」
エマが文明の後ろを指差した先には、岩陰から出る薄汚いケツが!!!父さんだ。。。

「バレちゃ仕方がない。お前が心配だったんだ。」
岩陰からひょっこりと父さんが顔を出した。

「父さん、僕だってもう年頃の男さ。彼女だって作ってもいいだろう?」

「ああ、いいさ。何人でもいいさ。でもな、文明。その子だけはダメなんだ。」
父さんがうつむきながらそう言った。

「おい、おっさん。何を言うつもりなんや?」
日本語が話せないはずのエマが、突然こてこての関西弁を話し始めた。

「えーーー!!!」
文明が尻もちを付き、父さんは一歩後ずさった。