「鬼」到着

タモツダ(保田)「ついた〜』

出発から一声も発さなかったタモツダが到着と同時にさけんだ。

その声で達也が目を覚ました。

達也「遂についたか!雑魚どもさっさとおりやがれ!」

達也はテンションが上がると口調が変わる。

謎の男「・・・」

謎の男が達也をにらみ出した。いや、正確には達也から北北西に2馬身の方角をにらみつけている。

その奇妙な光景にバス内が一瞬で凍りついた。。。

清三兵衛「今日!旅行!楽しく!ヒョーキンに!」

清三兵衛の話し方はいつも独特で、まわりの雰囲気を和らげる。

そんな、清三兵衛に千夜ちゃんは恋心を抱いていた。

バスから降りたメンバーを迎えたのはこの旅でお世話になる宿「鬼」の大女将だった。

大女将「いらっしゃい、ファンタスティックスティポーのみなさま」

「ファンタステッィクスティポー」とは私たちのサークルの名前である。

ファンタステッィクスティポー全員「よろしくお願いします!!!」

大女将「長旅、疲れたでしょ?部屋へどうぞ。」

達也「よし部屋で少し休憩して、温泉でもいこう!!撮英(さつえい)、カメラまわせ!」

撮英は自前のビデオカメラを回し始めた。(照英の遠い親戚でもある)

人が一人通れるかどうかの極細の廊下の突き当たりを右に男部屋、左に女部屋があった。

それぞれ部屋に荷物をおいて温泉へ行く準備をしていると、

「きゃーーん!!!!!!」

大女将の叫び声がきこえた。

バスの中にて

由美「よーし皆揃ったみたいね。出発するよー!」

私達を乗せたバスは目的地に向け出発した。

車内では皆それぞれに楽しくお喋りしたり、お菓子を食べたりして好きに過ごしている

達也は私の隣で早くも目を閉じて寝りこけている。
なんて寝つきのいいやつ…

そしてまた反対側を見ると…先程の男が黙って座っている。

バスが動き始めてもうやがて数十分は経とうとしている。
楽しい雰囲気に包まれた車内で、私は一人緊張していた。
気になる男子の隣に座るのが恥ずかしいからでも
お腹が痛いからでも車酔いしているからでもない。

(この人誰だろう……。)

隣に座ったもう1人の男が全く知らない人間だったからだ。

(見たことないけど…サークルメンバーだよね)

同じ大学と言えど生徒数はかなり多く、知らない人間が居ても不思議ではない。

しかし同じサークル内で顔も知らない人間が居たとは驚きだ。

昔から引っ込み思案で人見知りな私だけど今日はせっかくの楽しい旅だ。
意を決して話しかけてみることにした。

「あの〜!」

「……」

「初めまして!3年も同じ大学で同じサークルなのに、見たことも会ったことも無くてこの旅で初めましてだなんて。なんだか不思議な感じだよね!名前は?私は…」

「……」

私の頑張りもむなしく、男は一切こちらに視線を向けることなくただひたすらボーッと窓の外を見ている。

(名前すら教えてもらえないし…緊張して一気に喋りすぎたかなぁ…どうしよう。あっ、由美は彼が誰か知ってるよね。由美助けてよ〜)

一番後ろに座っている由美の方を振り返ってみるもむなしく、皆とのお喋りに夢中の様子でこちらに全く気付いてくれそうにない

隣の席で寝ている達也も一向に起きる気配はなかった。

(どうしよう…)

気まずい沈黙が続く中、私はあることに気がついた。

「あれ?君、荷物は…?」

しばらく沈黙が続いた後
「…ない」
男はポツリと呟いた。

「えっ?!無い???何も持ってきてないってこと!?」

……

それ以降いくら待っても男はそっぽを向いたまま、返事は無かった。

諦めた私はいつの間にか眠ってしまっていた。

起きるとバスは停車していて、皆それぞれ荷物を抱え席を立とうとしている。
どうやら目的地に着いたようだった。

エリートとロリータ

振り返ると、バスの入り口あたりに立っている色白長身の男子と目があった。

清三兵衛(きよさべえ)だ。

清三兵衛は、由緒正しい家の主審で三男なのだが、その名前のせいでだいぶ苦労してきたらしい。

私たちのサークルに入ってからは、気難しい性格のくせに、実は非常に優しいやつということで、キモサベと呼ばれている。
サークル内でもそこそこの地位とポジションを手に入れているいい奴である。

清三兵衛は、目が合ったことに気がつくと、口だけニヤリとさせながら、片手をあげてあいさつをしてきた。

私もおはよーと手を振って席に着いた。

(やったー!キモサベゲット!)

サークル内で、清三兵衛のニヤリを見るとその人に幸運が舞い込むという噂があった。

座席に着くと、達也が話しかけてきた。

「なあ、もう8人全員来てるんだっけ?」
「うん、きてるよー。」
「でも7人しかいないような…。」
「え~?あ、たぶん千夜ちゃんだよ。」
「あ、ああそうか。」

私は振り返って、

「千夜ちゃーん!」
「は~い!いるよ~」
「やっぱりいたー!おはようね!」
「う~ん!おはよ~」

清三兵衛の横、窓側の席に座っているようだ。
身長146cm、みんなのかわいい妹、千夜ちゃん。サークル外、大学外からも、たくさんのロリコン男子女子が千夜ちゃんを一目見ようと足を運んでくるのだ。

全員揃っていることを確認し、さあ出発というときだった。

「オイラも乗せてくれねーか・・・?」

バスの入り口から一人の男が入ってきたのだった。