父さんを探して

わけがわからなかった。
榎戸が見たのは本当に僕の父さんだったのか?だとしたらなぜ父さんが?

様々な疑問が頭の中を掻き乱す。辺りを見渡しても、父さんとそれらしき人達は見当たらなかった。探さなければ。ターミナルに繋がる出口へ早足で向かう。

ターミナルは大量の人で溢れていた。出来る限り目を動かし、父さんを探す。
夏休み中らしき大学生グループ。かなり大きいリュックを背負ったバックパッカー。笑顔で歩く5人家族。

その向こうに、父さんが着ていた紺色のTシャツがちらっと見えた。外国人だろうか、背が高い男数人と一緒に歩いている。背も同じくらいだが、遠くて顔がよく見えない。
違っていたらどうしよう。本当に見失ってしまうかもしれない。
父さんらしき男とその団体は、ターミナルの端にある関係者用の一室に向かっているようだった。
どうしよう、どうしよう。

「急げ! 」
頭の中で叫び声が聞こえ 、僕は大きく足を踏み出した。

先ほどこみ上げた熱いものは今や大量の汗に変わっていた。
大きな荷物を持ち足早に歩く人々を縫うように走り、父さんらしき男を追う。

ここが日本だったらこれほど焦ってはいないだろう。
幼少から「ゴッズ」と呼ばれた父さんだ。たいていのことは切り抜けるはずだ。
しかし今いる場所は外国で、カリフォルニア。何が起こるかなんて、全く想像ができない。

先ほど見えた姿に、もう少しで追いつく。団体の先頭がドアを開け、次々と入っていく。
紺色のTシャツの男がドアをくぐろうとしている。急げ!頭の中の声はずっとそう叫んでいる。

「おい、文明!」
いきなり後ろから声をかけられ、ハッとして振り返る。急に止まったのでつまずきそうになった。

「お前どこへ行くんだ?迷子になるぞ。」
紺色のシャツを着た父さんが僕に駆け寄ってきた。服も表情も、今朝見た時と全く変わらない。その後ろには美智也と榎戸が心配そうな顔をして立っていた。
まだ頭の中が空っぽで、声を出すことができない。前を見ると、もうドアは閉まっていた。

「もう皆行ってしまったぞ。父さんたちも行こう。」
「…わかった。」

考えがまとまらないまま、父さんを先頭にぞろぞろと歩く。集合場所からかなり遠ざかってしまった僕たちは、人ごみを避けるために一度空港を出て外から向かうことにした。

いつのまにか人がいない静かな通りに来ていた。薄暗く長い通路を黙々と進み、外に繋がるドアを開けた。

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