カリフォルニアフライト。

この日の成田空港はいつにも増して混雑していた。

修学旅行のシーズン真っ只中の8月は、僕たちが日本を離れる代わりに海外からの旅行 客が傾れ込む人口移動の多い時期でもある。特に中国人向けのパスポートフリーキャンペーンを国家予算で賄い始めた2180年(ニーハオの年)からは、空港 は中国人の無法地帯と化していた。これが今の日本の有り様なのだ。彼らが日本へ来なければ経済は破綻してしまう。世界中が32億人の中国人を求めて様々な 政策を国レベルで打ち立てているのだ。

僕は彼らの熱気と波に飲まれないように、集合場所A312へ足早に向かった。いや、正確には「僕ら」なのだが—。

「おーい、文明!こっちこっちー!」

聞き慣れた声を辿るように視線をやると、ゴミ屋敷のようにぞんざいに荷物が積まれた一角が目に飛び込んで来た。頂上には「A312」の案内ボード。僕らの集合場所だ。

「お前、荷物はどうした!?」

両手にボストンバッグを抱えた汗だくの男がふらつきながら駆け寄って来た。クラス一の秀才、工藤美智也だ。

「俺、今年こそ古のパイセン伝説に挑戦しようと思ってるんだ。だから荷物はなし。」

「馬鹿野郎か、お前。、、、死ぬ気か?」
美智也の顔から汗が引いていた。

「俺は死なないよ。伝説の男になるまではな!」
少し震えた声でそう叫んだ。

美智也は初めて見せる苦痛に満ちた顔を隠す様に僕に背を向け、黙って歩き出そうとした。

「待てよ!お前の力が必要なんだ!」
僕の直感が、そう言わせていた。今回の旅では彼の頭脳がおそらく必要になる。

「頼むよ、美智也。絶対お前には迷惑を掛けないから。一生のお願いだ。」

美智也が首を縦に振ったころには、158名の生徒と父さんと膨大な荷物を乗せて無事飛行機は飛び立った。12時間のフライトの途中、彼らはぐっすりと休んでいた。

一睡もできなかった僕は窓からずっと外を眺めていた。
雲の切れ間から見た事も無い壮大な大地が広がりが見え始めた。

「カリフォルニアだ・・・!」

僕は不安と興奮で押しつぶされそうな心に気づかないふりをして隣でぐっすりと寝ている父さんを眺めていた。

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