僕と榎戸

《ー皆様、当機はまもなく着陸態勢に入ります。お立ちのお客様はー…》

気圧のせいか耳が痛くなってきた。
飛行機には人生で数回ほど乗ったけれど、着陸するあの瞬間だけは未だに慣れない。

そんなことを考えているうちに、僕らを乗せたこの飛行機は無事空港に降り立った。
ゲートを出ると、クラスメート達がベルトコンベアから順番に流れてくる大量の荷物を待っていた。

こりゃ時間かかるな…
この中で唯一身軽であろう僕はそう呟きながらその場を華麗にスルーした。

荷物待ちの人集りを抜け、一人座っていると向こうの方から馬鹿でかい声で僕の名前を叫ぶやつがいた。

「おーーーい!文明〜ぃ!!」

図体も野獣のように馬鹿でかいその男は全速力でこちらへ駆け寄ってきた。

僕の大親友、榎戸(えのきど)だ。

「よっす。」
「文明ここに居たのかよ〜!探したぞ!」
「榎戸、やけに身軽だな。荷物待ちか?」
「え、荷物?そんなの持って来てねーよ!!」

榎戸は一点の曇りもない眼差しでそう答えた。

僕の中で、今年最大級の衝撃が走った。

あまりの衝撃に言葉を失っている僕をよそに、榎戸は屈託のない笑顔で話を続けた。

「お前も何も持たずに来たのか?やっぱりな!そうだと思ったんだよな〜」

そうか、馬鹿野郎の親友はやはりとんでもない馬鹿野郎だったんだ。

僕は妙に納得し、胸に熱く込み上げる思いと涙を必死で堪え無言のまま榎戸と熱いハグを交わした。

「そういえば文明、お前の父ちゃんそっくりなおっさんをそこで見かけたぞ!」

「ああ、そうなんだ。色々あってさ…付いてきたんだ。まったく困った父ちゃんだぜ。」

数秒前は笑顔だったはずの榎戸の表情が一瞬にして曇る。
「そ…そうなのか?!ついさっき怖い顔した大人数人に囲まれて無理矢理どっかに連れて行かれてたぞ…」

ー 榎戸のその一言よって、再び僕に衝撃が走る。

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