「文明、ところで朝ごはんはどうなっているんだ?」
ホテルを出たところで父さんが言った。
かれこれもう10回目の質問で答えるのも面倒だった。
「父さん、何度も言っているだろう?食事が付いているのは平日だけなんだ。今日は土曜日だから無いんだよ。」
朝ごはんに食事の重点を置いている父さんの目から一粒の涙が落ちた。
「泣いているのかい?父さん。」
「文明、その通りだ。」
そのやりとりを見ていたジョイが心配して父さんの肩をトントンと叩いた。
「What’s wrong?」
僕は説明した。
「日本の『おやじ』という生き物は朝ごはんに命を掛けているのにお金を日本から持って来て無いので店に入る事ができない、今日と明日はホテルでも食べられない。だから父さんはがっかりしているんだ、と。
するとジョイが、
「オッケーオッケー、ダイジョブダー!」と笑ってこう教えてくれた。
何やらこの近くに「セグウェイ」というコーヒースタンドがあるらしく、
「巨大ホットドックを30分以内に食べると無料!
2個食べると賞金50ドル!」
というイベントをオープン以来毎日行っているというのだ。しかも20年くらい前にそこに毎日通った日本人が居たらしい。
そこの店主は賞金を毎日持って行かれたことを悔しがり「セグウェイの危機」というタイトルの自叙伝まで出したというのだ。
僕はびっくりしてジョイに尋ねた。
「それってもしかして高校生じゃなかった??」
ジョイの答えはそう、Yesだった。
僕は確信した。
「伝説のパイセンはここに通っていたんだ!」
父さんがスクワットを隣で始めだした。
「文明、どうやらチャレンジしなければいけないようだな。やるぞ、父さんは!できるぞ、父さんは!!」
普段鳥のエサほどしか食べない食の細い父さんが意気込んでいる。
お腹がすいた時の「超食べれる感」ほどあてにならないものは無い。
僕は食べきれないであろう父さんの支払いを肩代わりする事になると予想し、チャレンジする事を予感していた。
すると、「Hey!!!!」モンズJrが天を指差したかと思うとゆっくりと下し、一点を差した。
「Segwey」
ホットドッグを持ったアメリカギャルの巨大な看板が目に飛び込んで来た。
僕は「ゴクン」と唾をのみ父さんと歩幅を合わせて店へ歩き始めた。