バスの中にて

由美「よーし皆揃ったみたいね。出発するよー!」

私達を乗せたバスは目的地に向け出発した。

車内では皆それぞれに楽しくお喋りしたり、お菓子を食べたりして好きに過ごしている

達也は私の隣で早くも目を閉じて寝りこけている。
なんて寝つきのいいやつ…

そしてまた反対側を見ると…先程の男が黙って座っている。

バスが動き始めてもうやがて数十分は経とうとしている。
楽しい雰囲気に包まれた車内で、私は一人緊張していた。
気になる男子の隣に座るのが恥ずかしいからでも
お腹が痛いからでも車酔いしているからでもない。

(この人誰だろう……。)

隣に座ったもう1人の男が全く知らない人間だったからだ。

(見たことないけど…サークルメンバーだよね)

同じ大学と言えど生徒数はかなり多く、知らない人間が居ても不思議ではない。

しかし同じサークル内で顔も知らない人間が居たとは驚きだ。

昔から引っ込み思案で人見知りな私だけど今日はせっかくの楽しい旅だ。
意を決して話しかけてみることにした。

「あの〜!」

「……」

「初めまして!3年も同じ大学で同じサークルなのに、見たことも会ったことも無くてこの旅で初めましてだなんて。なんだか不思議な感じだよね!名前は?私は…」

「……」

私の頑張りもむなしく、男は一切こちらに視線を向けることなくただひたすらボーッと窓の外を見ている。

(名前すら教えてもらえないし…緊張して一気に喋りすぎたかなぁ…どうしよう。あっ、由美は彼が誰か知ってるよね。由美助けてよ〜)

一番後ろに座っている由美の方を振り返ってみるもむなしく、皆とのお喋りに夢中の様子でこちらに全く気付いてくれそうにない

隣の席で寝ている達也も一向に起きる気配はなかった。

(どうしよう…)

気まずい沈黙が続く中、私はあることに気がついた。

「あれ?君、荷物は…?」

しばらく沈黙が続いた後
「…ない」
男はポツリと呟いた。

「えっ?!無い???何も持ってきてないってこと!?」

……

それ以降いくら待っても男はそっぽを向いたまま、返事は無かった。

諦めた私はいつの間にか眠ってしまっていた。

起きるとバスは停車していて、皆それぞれ荷物を抱え席を立とうとしている。
どうやら目的地に着いたようだった。

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