エリートとロリータ

振り返ると、バスの入り口あたりに立っている色白長身の男子と目があった。

清三兵衛(きよさべえ)だ。

清三兵衛は、由緒正しい家の主審で三男なのだが、その名前のせいでだいぶ苦労してきたらしい。

私たちのサークルに入ってからは、気難しい性格のくせに、実は非常に優しいやつということで、キモサベと呼ばれている。
サークル内でもそこそこの地位とポジションを手に入れているいい奴である。

清三兵衛は、目が合ったことに気がつくと、口だけニヤリとさせながら、片手をあげてあいさつをしてきた。

私もおはよーと手を振って席に着いた。

(やったー!キモサベゲット!)

サークル内で、清三兵衛のニヤリを見るとその人に幸運が舞い込むという噂があった。

座席に着くと、達也が話しかけてきた。

「なあ、もう8人全員来てるんだっけ?」
「うん、きてるよー。」
「でも7人しかいないような…。」
「え~?あ、たぶん千夜ちゃんだよ。」
「あ、ああそうか。」

私は振り返って、

「千夜ちゃーん!」
「は~い!いるよ~」
「やっぱりいたー!おはようね!」
「う~ん!おはよ~」

清三兵衛の横、窓側の席に座っているようだ。
身長146cm、みんなのかわいい妹、千夜ちゃん。サークル外、大学外からも、たくさんのロリコン男子女子が千夜ちゃんを一目見ようと足を運んでくるのだ。

全員揃っていることを確認し、さあ出発というときだった。

「オイラも乗せてくれねーか・・・?」

バスの入り口から一人の男が入ってきたのだった。

由美と達也。

先に到着したのは一番仲良しの由美だった。

2泊3日の旅とは思えないほど小さなショルダーバッグを片手に、タンクトップに短パンという身軽な出で立ちで大きく手を降っている。彼女は大学でも有名なトリッパーで24カ国を一人旅した経験の持ち主。

最初のメキシコ旅行では、帰りの飛行機の中でバッグの中に大麻を仕込まれしばらく監禁されたとかされないとか。そんな彼女がこの旅行であんな計画を立てていたなんて、この時は全く気付かなかった。

 

箱根行きのバスが到着する頃には8人全てのメンバーが揃っていた。男女半々のこんかいの旅の参加者の中には以前から気になっている達也の姿もあった。

いつものジーンズにTシャツというシンプルな服装ながら、元々のスタイルの良さのせいか一際目立っていた。ほとんどが学生の参加者ばかりの学生の中で、すでに女の子達の視線を集めている。

「達也ー!!おはよう!今日は遅刻しなかったんだ。」
一斉に達也に向けられていた視線がこちらを向くが、気付かないふりをして話を続けた。

「おー、お前も来てたんだ。てか、遅刻するのは授業だけだよ。てっきりお前は補習組で今頃大学でヒーヒー言ってるのかと思ってたよ。一緒に座ろうぜ!」

(えっ!隣に!?やばい、今日適当に眉毛書いてきちゃった。。)

「あ、でも。。由美がいるから、、」と、そう言いかけると

「一緒に乗りなよ!私は一番後ろを陣取ったからさ!」と由美が背中をトンっと押してきた。

「うん、わかった。じゃあ、、乗ろっか。」

そう言って、嬉しさと緊張の中バスに乗り込んだが、この時別の視線を感じて後ろを振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

はじまりの朝。

「いい天気だー!」

待ちに待った旅行当日は文句なしの晴天だった。
数日前の天気予報で分かりきっていたことではあったが
窓から見える完璧な青空に思わず笑顔で背伸びをした。
セットしたアラームよりも早く目覚め、化粧やら着替えやらと身支度を進めていく。

大学が夏休みに入って1ヶ月ほど過ぎた頃、
サークルの仲良しメンバーで夏の締めくくりに旅行へ行こうという話になった。
じっくり話し合う時間もなく、人気のプランは空きがないため今回はお手軽なバスツアー。
避暑地への2泊3日の温泉旅行だ。

ギリギリの申し込みでも間に合った事からあまり人気のないツアーのようだったが
宿泊先は有名な情緒ある温泉街の中にあるらしく
着いたら浴衣で散歩したいねなんて皆で盛り上がっていた。

9月ももう半ば。
登りきった太陽のもと、ボストンバッグを片手に
集合場所の駅までの道のりを十数分歩くだけでじんわりと汗をかく。
あと数時間後には涼しい場所でかき氷を食べるんだ…
これから向かう避暑地に思いを馳せていると見覚えのある顔が見えて手を振った。