歴史は繰り返す

「ええええ!!!」
「what’s??」

みんな驚いている。

一人を除いては。

その一人とは、そう。父さんである。

「父さん、その表情。。。まさか、気付いてたの?」

「ああ、そのまさかだ、文明。」

IQ5億!と、よく自分んで言ってるだけのことはあるな。

これならやれる。文明は確信した。

よーし!いくぞ!!!!!

すると、巨大ホットドックをもって、全員お店のテラス席にむかった。

その時だった。

上空から無数の黒い影が、巨大ホットドックに突き刺さるように降りかかってきた。

巨大コンドルだ!!

父さん「ニヤリ」

口で言った

父さん「目には目を。巨大ホットドックには巨大コンドルを」

意味は全くわからないが、僕の思惑通り無数の巨大コンドルが3メートルの巨大ホットドックを一気に食していった。

そう、ルールには「巨大ホットドックを巨大コンドルに食べさせてはいけない」とは記されはなかったのだ。

「Oh my god !!!!!!!!!!」

マスターが怒りながらやってきた。

 

magonia

マスターが怒鳴りちらそうとしていたが、

ジョイが「早く賞金だせ!」的なことを話しかけている。

モンズJrは明日も同じ条件でくるからな!的なことを話しかけている。

横には榎戸もいて、ガン見している。

はたから見れば恐喝だが、正式にクリアの条件を果たしている。

賞金ももらえたし、明日も同じ条件で来ていいことになった。

しかし、この時5人はまだ何も知らなかった。

Segweyのマスターがこれから頭脳戦をクリ広げようとしている、伝説の守護者ペリスクール四天王の一角、

「カリフォルニアの一休」と呼び声高い、トンチマスター・キッボン・ニスノスの育ての親であり、産みの親ということに。。。。

男達は賞金でタクシーを呼び、ついに「ペリスクール」にたどり着いた。

勝利の予感

榎戸があのソースを使ったらしい。
パッケージに悪魔が描かれたソースだ。
すでに榎戸の目はうつろで額からは汗が噴き出し、手も震えていてる。

榎戸という男は後先を考えない。昔からそうだ。それがいい方に転ぶこともあるのだが、
だいたいはやらかす。
今回もこの賞金のかかった大勝負で完全にやらかしている…
と、そんな榎戸に気を取られている場合ではない。
食べ始めてもうすぐ10分だ。
ついさっきまでパーティー気分ではしゃいでいたジョイとモンズJrも少しペースダウンしてきている。

「つらいか、文明。こんな時は頭を使え!正攻法で勝とうと思うな!」

一番ペースダウンしている父さんが何か言っている。
だが確かにそうだ。今のままでは完食は程遠い。
何かいい手はないか…
そうだ、こんな時美智也ならどうするだろうか。
いつも機転を利かせピンチをチャンスに変える美智也なら。
「…そうか」
文明は一つの恐ろしいアイディアが頭に浮かんだ。
「これならいけるかもしれない!みんな聞いてくれ!」

モンスター・ホットドッグ

「「Wooow…!!」」
現れた巨大ホットドッグを前にジョイとモンズJrが歓喜の声を上げた。

予想を遥かに上回る大きさに、日本人3人は唖然としていた。
ドン引きだ。アメリカンサイズにも程があるだろう。父さんなんかほぼ白目を剥いている。

「父さん大丈夫…?」
気を失いそうな父さんが心配で声を掛ける。

「あぁ…大丈夫だ。うまそうだな。」

全く感情がこもってない父さんの言葉とは正反対に
ジョイとモンズJrは目をキラキラと輝かせ、待ちきれないとばかりに笑顔で両手をすり合わせている。
「オイシソウ! Can’t wait, Haha!!」

「Are you ready?」
マスターが時計をテーブルに置くと、5人を見渡した。

「オーケー。」「Yeeeah!!!」
父さんも榎戸も覚悟を決めたように頷く。

「Ok, START!!」

マスターの声が響き時計の針が動き出した瞬間、皆が一斉に巨大ホットドッグにかぶりついた。
5kg超えは確実のこのモンスターは、この店の名物なだけあってものすごく美味しかった。
焼きたてのパンは外は少しパリっと中はふわふわでほんのり甘く、塩気が効いたジューシーなソーセージとよく合う。
店側の配慮なのかケチャップやマスタード、タバスコやチーズソースなどあらゆる調味料も準備されていた。
パッケージに悪魔が描かれた、赤黒い色をしたソースなんかもあった。あれには絶対手を出さないと心に誓った。

「うまいなあこれ!父さんあっという間に食べられそうだ!!」
マスタード片手に頬張る父さんをはじめ、やっと食事にありつけた一同はうまいうまいとどんどん食べ進めていく。

しかし勝負は30分。しかも賞金を得るには1個15分で食べないといけない。
後半はペースが落ちると考えて、まずはこれを10分で食べ切らないと。

榎戸も同じことを考えているのだろう、口数が減り次から次へと巨大ホットドッグを頬張っている。

「オイシイネー!フォー!!サイコー!!ハッハー!」
ジョイとモンズJrは二人でげらげらと笑いながら楽しそうに食べていた。

マスターをちらりと見ると、腕を組んでこっちを眺めている。
たっぷりの口ひげであまり表情は読み取れないが、心なしか目は嬉しそうだ。

「うわぁぁぁああぁぁぁぁああ!!」

スタートから6分ほどが経過した頃、一つ目の事件が起きた。

Segweyにて

ーカランコロン

「いらっしゃい。ランチは終わったよ」
店のドアを開けると、そう広くない店内にマスターが一人立っていた。

「僕ら、ホットドッグチャレンジがしたいんだ」

マスターは食器を拭く手を止め、5人の方に目をやるとしばし沈黙の時が流れた。
張り詰めた空気の中、男6人が無言で見つめ合あう。

店内はコーヒーのいい香りが立ち込めている。
そのせいかまた余計にお腹が減ってきた。

「…正気だな?」
先に口を開いたのはマスターの方だった。

「ああ!この5人で勝負だから全員勝てば250ドルは頂くぜ」

マスターは僕らに何も聞かず「オーケー」とだけ言うと奥の厨房へと消えていった。

隣に座っている父さんに目をやると手が震えていた。
「おじさん…武者震いってやつ?かっけえっす…!」
僕が声をかけるより先に榎戸が真顔で言った。

「いやぁ〜おじさん低血糖でなぁ。薬は家だしな、ハハハ」
大丈夫大丈夫…と小さく笑う父さんの顔からはすでに変な汗が噴き出している。

こんなことで無事に勝てるのだろうか。
一抹の不安がよぎり、僕らの間に再び長い沈黙が訪れた。

誰一人として言葉を発することもなく、小一時間程待ったところでマスターが厨房から出てきた。

準備が整った様だ。

5人それぞれの目の前に出されたのは、全長3メートルはゆうに越えるであろう巨大ホットドッグであった。

伝説のパイセンの足跡。

「文明、ところで朝ごはんはどうなっているんだ?」
ホテルを出たところで父さんが言った。
かれこれもう10回目の質問で答えるのも面倒だった。

「父さん、何度も言っているだろう?食事が付いているのは平日だけなんだ。今日は土曜日だから無いんだよ。」

朝ごはんに食事の重点を置いている父さんの目から一粒の涙が落ちた。

「泣いているのかい?父さん。」

「文明、その通りだ。」

そのやりとりを見ていたジョイが心配して父さんの肩をトントンと叩いた。
「What’s wrong?」

僕は説明した。

「日本の『おやじ』という生き物は朝ごはんに命を掛けているのにお金を日本から持って来て無いので店に入る事ができない、今日と明日はホテルでも食べられない。だから父さんはがっかりしているんだ、と。
するとジョイが、
「オッケーオッケー、ダイジョブダー!」と笑ってこう教えてくれた。

何やらこの近くに「セグウェイ」というコーヒースタンドがあるらしく、

「巨大ホットドックを30分以内に食べると無料!
2個食べると賞金50ドル!」

というイベントをオープン以来毎日行っているというのだ。しかも20年くらい前にそこに毎日通った日本人が居たらしい。
そこの店主は賞金を毎日持って行かれたことを悔しがり「セグウェイの危機」というタイトルの自叙伝まで出したというのだ。

僕はびっくりしてジョイに尋ねた。

「それってもしかして高校生じゃなかった??」
ジョイの答えはそう、Yesだった。

僕は確信した。
「伝説のパイセンはここに通っていたんだ!」

父さんがスクワットを隣で始めだした。
「文明、どうやらチャレンジしなければいけないようだな。やるぞ、父さんは!できるぞ、父さんは!!」

普段鳥のエサほどしか食べない食の細い父さんが意気込んでいる。
お腹がすいた時の「超食べれる感」ほどあてにならないものは無い。

僕は食べきれないであろう父さんの支払いを肩代わりする事になると予想し、チャレンジする事を予感していた。

すると、「Hey!!!!」モンズJrが天を指差したかと思うとゆっくりと下し、一点を差した。

「Segwey」

ホットドッグを持ったアメリカギャルの巨大な看板が目に飛び込んで来た。
僕は「ゴクン」と唾をのみ父さんと歩幅を合わせて店へ歩き始めた。

hey!伝説を辿る旅

ドンドンドン!!!
ドンドンドン!!!

ん?んん?眩しい・・・。
・・・朝か。朝がやってきたようだな。
それにしてもうるさいったらありゃしない。

ドンドンドン!!!
ドンドンドン!!!

え?なに?なんなんだ?

井上先生「何してる!目祖歩田宮!」

あれ?先生?

文明「hey!」

井上先生「ヘイ!じゃないだろ!もう12時だぞ!今日は8時から朝食で10時から現地スクーラーとのオリエンだろ!もう終わったぞ!」

しまった!ダンスパーティーと思って明け方まで踊っていたのは僕らだけか!
知らないうちに眠ってしまったようだ・・・。

文明は寝ぼけた目をこすりながら、部屋の中を見回し言葉を失った。

ゴリゴリのタトゥーBe-bopハイスクーラーのジョイとモンズJrと榎戸が並んで寝ていた。
しかも全員裸だった。相当打ち明けていたがここまでとは。ところで父さんと美智也は・・。

と思ったがよく見ると、ジョイとモンズJrの間に美智也、モンズJrと榎戸の間に父さんが挟まっていた。
全員揃っている、一安心だ。文明はそう思った。そう。文明は仲間想いなのだ。

だが、こんな状況を井上先生に見られるのも面倒だ。
嘘に全力を注ぐしかない!基本的に嘘は嫌いだが今だけは別だ!

文明「先生!寝坊したようです!全員で!すぐ行きます!」

井上先生「仕方ないお前たちだな!お父さんもよろしくな!」

文明「はい!」

ドアの向こうで井上先生が離れていく音が聞こえた。

そんなやりとりをしているうちにみんなも目を覚またようでベッドからゾロゾロと出てきていた。

ジョイ「ヘイ。エキサイティング ヨル アリガト。」

ジョイは、父さんが日本語しか話さななかったので、少し覚えていた。

モンズJr「ウーン。イェー。」

モンズJrは、未知数だ。

ジョイ「アイルビーバック。ハハ!」

そう言うと二人は連絡先のメモを置いて帰っていった。
交流会も頻繁に入れてあるようだしまたすぐ会うことになるだろう。

美智也「おはよう。初日からトンデモナイ目にあっちまったな。」
榎戸「ほんとだぜー。でも最高でもあったぜ。」

しばらくそんな話をして続けているが父さんが起きてこない。
朝は強いはずのあの父さんが。嫌な予感がかけめぐる。

文明「父さん!」

父さん「なんだ?朝ごはんを食べたいな文明。どうだ?」

文明「え?いや、全然起きてこなかったから大丈夫かなと思って・・。」

父さん「ああ、挟まっていたから疲れていたんだろう。すまない。謝らせてくれ。」

文明「いいよ。それより今日はこれから・・・。」

!!あれ!!

・・何も持ってきてないから予定がわからないじゃないか!・・でも、

美智也だけわかる!

文明「美智也、四人の中でお前だけがスケジュールがわかるんだ。教えてくれ。」

美智也「ああ。えーっと、あ、今日はもう自由らしいな。」

文明「かなり自由だな。(先生のとこに行く意味ないな。)それならひとつ行っておきたい場所があるんだがいいかな?」

榎戸「もしや、あそこか?」

文明「そう。」

「ペリス。」

僕と榎戸が声をそろえた。

文明「伝説のパイセンが修学旅行中、ペリスのペリスハイスクール、通称ペリスクールを拠点にしたとの噂だ。何か助けになってくれるかもしれない。ここからだと歩いてざっと7時間てとこだ。夜には着くさ。」

美智也「すまない。僕の所存を聞いてくれないか?」

文明「どうしたんだ?」

美智也「僕は、伝説のパイセンを目指しているわけじゃないんだ・・。行く意味がないだろ。行きたくない所存なんだ。」

文明「頼む!英語が話せるのもお前しか・・」

父さん「やめろ文明。やめておけ。やめておけばいいだろ今回は。すぐ戻るさ。」

そして今回美智也は留守番することになった。

しかし、英語を話せる人間がいた方がいいということで、、ジョイとモンズJrが呼び出された。

父さん「さあ出発するか!」

日本人3人とアメリカ人2人は手ぶらで歩き出した。

伝説の守護者ペリスクール四天王との頭脳戦がはじまろうとしていた。

カリフォルニア!最高だ!!

その頃カリフォルニアでは。。。。

足早に歩き出す父さんに

文明「父さん!Wait!」

カリフォルニアにいるからだろうか、つい調子に乗ってしまう。

父「What’s!?」

ファーダーも完全に調子にライドしている。

それに気づいた美智也と榎戸は

Enokido-boy「カリフォ〜ニャ〜!」

Michiya-boy「キャリフォルニア〜!!!」

榎戸はいつもの事だが、クールな美智也まで「カリフォルニア」の事を「キャリフォルニア」とハイテンションで叫ばしてしまうこの空気!!

カリフォルニア!やっぱり最高だ!!!!!

「キャリフォルニア~!!」
「カリフォ~ニャ~!」
「エスパ〜ニャ〜!!」

ハイテンションでしばらく騒いでいると、遠くから駆け足で男が近づいてくる。

父さん「ポリスだ!!静かにしろ、お前達!」

担任の井上先生だった。

井上先生「お前達、何してたんだ!!みんな探してたんだぞ!!」

口調こそ強めだったが、井上先生は安心した表情で僕たちを眺めていた。

近くのバス停まで先生と話しながら歩き、ホテル リバーサイド(豆高が宿泊するペンション)行きのバスにのった。

無事リバーサイドについた僕らを待っていたのは、現地のハイスクーラーと交流を深めるための食事会だった。

先に来たクラスメート達はすでに打ち解けており、みんな楽しそうに現地のハイスクーラーお手製のカリフォルニアロールを食している。

僕たちはというと、、、、

「hey!!Crazyboyz!」

2mはあるだろうか、高校生とは思えないムキムキな体つきで全身タトゥが入った男達が、鋭い目つきで近寄ってきた。

みんな避けていたんだろう、誰とも交流していなかった現地のBe-bopハイスクーラーだ!!

父さん「主役のお出ましだな。」

父さんは格好つけていたが、ビビっているのが丸わかりだ。膝がMCハマーの踊りみたいな震え方をしている。

Be-bopハイスクーラーが近づくにつれて、膝がMCハマー度を増していく!!!

Be-bopハイスクーラー「Wao!」

急にBe-bopハイスクーラーの目つきが変わった。

僕は何が起こったのかわからなかった。

リズムを取るbe-bopハイスクーラー。

そして踊り出す!

踊っているbe-bopハイスクーラーの迫力は凄まじかった!

激しいダンスによってタンクトップがめくり上がった。

ん!!?

そこには「respect MC Hammer」と彫られたタトゥが!!!

この夜、父さんがBe-bopハイスクーラーとマブダチになったのは誰もが知っている話となった。

食事会はダンス大会と変わり朝まで続いた。

残された二人

一方その頃、目祖歩田宮家では…
カリフォルニアとの時差17時間。
日本はちょうど夕方6時だ。部活を終えて妹の文江が家に帰ってきた。

文江「ただいまー」

母「おかえりなさい、今日は早かったわね」
文江は豆俵高校1年生、陸上部に入っている。近々大きな大会が控えており毎日遅くまで練習に励んでいる。

文江「あぁ、顧問のやじまが居なくて自主練だったから早く帰ってきたの。あれ?お父さんと文明は?」

母「言ってたでしょ、カリフォルニアよ!お母さん海外行ったことないから一緒に連れて行ってほしかったわ〜。」

文江「そっか!修学旅行ね、カリフォルニアだなんてうちの高校だけよ。私、海外嫌だなー、なんか怖いし。」

母「いいじゃないカリフォルニア!本場のディズニーランドがあるのよ!ディズニーランド!。」

文江「まじで、カリフォルニアが本場なの?知らなかった〜、だったらちょっと行きたいかも。」
文江は文明が置いて行った修学旅行のしおりを手に取る。

文江「へぇー、ハリウッドの看板もあるんだ。おすすめグルメは…カリフォルニアロールだって!ウケる、これって日本の料理じゃないの?そういえばお母さん、お土産頼んだ?」

母「やだ、すっかり忘れてたわ。ディズニーランドのお土産買ってきてほしかったのに!」

文江「えー、じゃあメールしてみよっか?でも海外ってメール送るのもなんか料金かかるのかな?なんか怖〜やっぱやめとく!」

母「そうね、お母さんも携帯詳しくないからわかんないわ。きっと買ってきてくれるでしょ。父さんも一緒なんだし!あーお母さんも一緒に行きたかったー。」

これからカリフォルニアで何が起ころうとしているのかも全く知らず
目祖歩田宮家は今日も平和であった。

父さんを探して

わけがわからなかった。
榎戸が見たのは本当に僕の父さんだったのか?だとしたらなぜ父さんが?

様々な疑問が頭の中を掻き乱す。辺りを見渡しても、父さんとそれらしき人達は見当たらなかった。探さなければ。ターミナルに繋がる出口へ早足で向かう。

ターミナルは大量の人で溢れていた。出来る限り目を動かし、父さんを探す。
夏休み中らしき大学生グループ。かなり大きいリュックを背負ったバックパッカー。笑顔で歩く5人家族。

その向こうに、父さんが着ていた紺色のTシャツがちらっと見えた。外国人だろうか、背が高い男数人と一緒に歩いている。背も同じくらいだが、遠くて顔がよく見えない。
違っていたらどうしよう。本当に見失ってしまうかもしれない。
父さんらしき男とその団体は、ターミナルの端にある関係者用の一室に向かっているようだった。
どうしよう、どうしよう。

「急げ! 」
頭の中で叫び声が聞こえ 、僕は大きく足を踏み出した。

先ほどこみ上げた熱いものは今や大量の汗に変わっていた。
大きな荷物を持ち足早に歩く人々を縫うように走り、父さんらしき男を追う。

ここが日本だったらこれほど焦ってはいないだろう。
幼少から「ゴッズ」と呼ばれた父さんだ。たいていのことは切り抜けるはずだ。
しかし今いる場所は外国で、カリフォルニア。何が起こるかなんて、全く想像ができない。

先ほど見えた姿に、もう少しで追いつく。団体の先頭がドアを開け、次々と入っていく。
紺色のTシャツの男がドアをくぐろうとしている。急げ!頭の中の声はずっとそう叫んでいる。

「おい、文明!」
いきなり後ろから声をかけられ、ハッとして振り返る。急に止まったのでつまずきそうになった。

「お前どこへ行くんだ?迷子になるぞ。」
紺色のシャツを着た父さんが僕に駆け寄ってきた。服も表情も、今朝見た時と全く変わらない。その後ろには美智也と榎戸が心配そうな顔をして立っていた。
まだ頭の中が空っぽで、声を出すことができない。前を見ると、もうドアは閉まっていた。

「もう皆行ってしまったぞ。父さんたちも行こう。」
「…わかった。」

考えがまとまらないまま、父さんを先頭にぞろぞろと歩く。集合場所からかなり遠ざかってしまった僕たちは、人ごみを避けるために一度空港を出て外から向かうことにした。

いつのまにか人がいない静かな通りに来ていた。薄暗く長い通路を黙々と進み、外に繋がるドアを開けた。

僕と榎戸

《ー皆様、当機はまもなく着陸態勢に入ります。お立ちのお客様はー…》

気圧のせいか耳が痛くなってきた。
飛行機には人生で数回ほど乗ったけれど、着陸するあの瞬間だけは未だに慣れない。

そんなことを考えているうちに、僕らを乗せたこの飛行機は無事空港に降り立った。
ゲートを出ると、クラスメート達がベルトコンベアから順番に流れてくる大量の荷物を待っていた。

こりゃ時間かかるな…
この中で唯一身軽であろう僕はそう呟きながらその場を華麗にスルーした。

荷物待ちの人集りを抜け、一人座っていると向こうの方から馬鹿でかい声で僕の名前を叫ぶやつがいた。

「おーーーい!文明〜ぃ!!」

図体も野獣のように馬鹿でかいその男は全速力でこちらへ駆け寄ってきた。

僕の大親友、榎戸(えのきど)だ。

「よっす。」
「文明ここに居たのかよ〜!探したぞ!」
「榎戸、やけに身軽だな。荷物待ちか?」
「え、荷物?そんなの持って来てねーよ!!」

榎戸は一点の曇りもない眼差しでそう答えた。

僕の中で、今年最大級の衝撃が走った。

あまりの衝撃に言葉を失っている僕をよそに、榎戸は屈託のない笑顔で話を続けた。

「お前も何も持たずに来たのか?やっぱりな!そうだと思ったんだよな〜」

そうか、馬鹿野郎の親友はやはりとんでもない馬鹿野郎だったんだ。

僕は妙に納得し、胸に熱く込み上げる思いと涙を必死で堪え無言のまま榎戸と熱いハグを交わした。

「そういえば文明、お前の父ちゃんそっくりなおっさんをそこで見かけたぞ!」

「ああ、そうなんだ。色々あってさ…付いてきたんだ。まったく困った父ちゃんだぜ。」

数秒前は笑顔だったはずの榎戸の表情が一瞬にして曇る。
「そ…そうなのか?!ついさっき怖い顔した大人数人に囲まれて無理矢理どっかに連れて行かれてたぞ…」

ー 榎戸のその一言よって、再び僕に衝撃が走る。